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大人の食育

お弁当からみえるもの〜作る楽しみ 知る喜び

 第7回よみうり「大人の食育」リレー講座は、「お弁当からみえるもの〜作る楽しみ 知る喜び」をテーマに、2011年12月14日、福岡市の読売新聞西部本社・よみうりプラザで開かれた。「九大弁当の日」を生み出した九州大学大学院農学研究院助教の佐藤剛史さんが「大学生のいまどき食事情」と題して基調講演。続くパネルディスカッションには、管理栄養士でフードコーディネーターの金高愛さん、JA全農ふくれん県本部長の村岡潤一さんが加わり、弁当をはじめ料理をすることで深まっていく食材や産地との関係などについて語り合った。


 ◇パネルディスカッション

■パネリスト
九州大学大学院農学研究院助教 佐藤 剛史さん
オーガニック料理教室「La CUCINA」主宰 金高 愛さん
JA全農ふくれん県本部長 村岡 潤一さん

■コーディネーター
読売新聞西部本社編集委員 田口 淳一

 ◆作り手への感謝 かみしめ

 田口 まず、弁当の思い出からお願いします。

 村岡 うちは専業農家で、母親は家事に農業に忙しいなか弁当を作ってくれましたが、おかずは煮ものが多く、蓋を開けるとほとんど茶色。サラリーマン家庭の子のカラフルな弁当がうらやましかったですね。

 金高 運動会や遠足のお弁当が楽しみでした。母親の手作りでしたが、友人のコンビニ弁当がうらやましくて買ったことがあります。でも私の口には合わず、その一度だけでした。

 佐藤 じつは大学生になって、2か月、3食コンビニ弁当という経験があります。母の味がなつかしくなって、電話で作り方を聞いて自炊を始めました。

 田口 悪いのは食生活のあり方でコンビニではないですね。念のために。ところで、子どもたちが弁当を作る「弁当の日」に取り組んだ香川県の竹下和男先生が卒業生に贈った20項目の言葉を、どう受け止められますか。

 村岡 「ひと粒の米・1個のハクサイ・1本のダイコンの中にも『命』を感じた人は、思いやりのある人です」や「登下校の道すがら、稲や野菜が育っていくのをうれしく感じた人は、慈しむ心のある人です」が好きですね。生産者が感じていることでもあります。

 金高 お弁当を切り口に、社会、生産者、家族、生活にまつわるすべてのことが凝縮されています。どの言葉も感慨深いですね。

 佐藤 「弁当の日」の実施で給食の食べ残しが少なくなります。なぜか。自分が焼いた卵焼きの端を、父親が「うまい」と食べてくれてうれしかった。給食を残すと調理のおばちゃん、いやだろうなと思う。作り手に目を向けるんですね。

 田口 「九大弁当の日」もやってますね。

 佐藤 竹下先生の「弁当の日」を知って始めました。週1回でテーマを設け、1品持ち寄り。学生は「おいしい」と言ってもらいたくて手間をかけますよ。農業を守っていこうと思えば、若い人の食生活をどうにかしないといけない。農業経済学を学ぶ者としての、私の問題意識なんです。

 田口 料理をすると、産地にも想像が及びますね。

 金高 農家からいただく食材をよく料理教室で使いますが、生産現場を訪ねると見えることがあるなあと思います。農作業を手伝ううちに、土や水、環境の大事さを学び、私自身も畑を借りて野菜をつくるようになっています。

 佐藤 週末の農家泊まり込みを1年続けたことがあります。技術や経営に加え、大切なことを学びました。農家の人が農業や地域、自然に向けるまなざしのすごさ。それによって環境が守られていることも。

 田口 農業を取り巻く状況は厳しいですね。

 ◆農業と田園風景守る使命…村岡さん


村岡潤一さん

 村岡 農家が減り、後継者もいなくて耕作放棄地が増えています。私たちには農業、田園風景を守っていく使命もある。高齢で続けられないのなら、農協や法人が違う形で守っていく。そういうことがあちこちで始まっています。農家の子弟ではない若い人をプロに育てる試みもあります。

 金高 作った物が売れずに廃棄されている問題もあります。それらを加工できないかと考える農家のお手伝いをしたいと思ってきました。パスタソースやピクルスなどを作り、離乳食の話もでています。どう売っていくかも課題です。

 村岡 交流が励みにもなります。高齢化で「来年やめよう」と思っていた農家に、生協のグループが訪れ、子どもたちから「また来年ね」と声をかけられ、「ようし、やるぞ」という気持ちになったようです。

 佐藤 全国の大学に農業サークルが生まれ、農業に携わってみたいという大学生が増えています。強力な応援団になる。新しい価値観を作りながら発信していく力に期待しています。

 田口 これからの農業をどうお考えですか。

 村岡 福岡では後継者育成のためにも、イチゴの「博多あまおう」やイチジクの「とよみつひめ」、お米の「元気つくし」のようなブランド化を強く意識しています。企業との共同事業も考えています。

 ◆「かかりつけ農家」お勧め…金高さん


金高愛さん

 金高 野菜には生産者履歴がついていて、気に入れば、その生産者から購入する方法もあります。その結果、これがおいしい、いまはこれができているといった情報が得られ、産地を身近に感じられます。そんな「かかりつけ農家」をお勧めしますね。

 佐藤 先払い制度も考えられます。消費者が1年間に食べる米の量から換算した10年分の金額を払い、10年間の米づくりを農家に依頼する。生産者と消費者が互いの命と生活を支え合うことで、農業も少しは安定すると思います。

 田口 新年の抱負は。

 金高 自分の加工品を生み出して、農業を盛り上げたいですね。

 佐藤 小説などに執筆の幅を広げ、農業を支える応援団を増やしたいですね。

 村岡 安全安心で、おいしいものを安定的にお届けする。さらにパワーアップして、この永遠の課題に取り組みたいと思います。

■基調講演「大学生のいまどき食事情」

九州大学大学院助教 佐藤剛史さん


佐藤剛史さん

 ◆親元離れる前 自炊力を

 いまどきの小、中学校の運動会では、コンビニ弁当を持たされた子どもや、昼休みにファミリーレストランに行く家族がいます。カロリー摂取だけなら十分でも、子どもの心は、お母さんが手間をかけて作ったものを食べることで育まれていくものです。

 学校給食のない中学校に通うある男子生徒は、両親が共働きで毎日500円渡されていました。学校の購買部でパンを買うか、コンビニの弁当にするか。自分で選んで買えるのが最初はうれしかった。でも、だんだん友だちの弁当がうらやましくなり、がまんした末に「月に1度弁当を作って」と頼みました。

 「無理を言わないで。あなたを育てるため一生懸命働いているのよ」と答える母親に、生徒は「月に1度作る時間もないの。そんなに仕事が大切なら産まなかったらよかったのに」と言ったそうです。

 重要なのは、「あなたの命が大切。だからその命をつなぐ食が大事」と、大人が再認識することです。

 保育士130人に保育園児の食について聞いたことがあります。朝食がプリン、ケーキ、たい焼き、シリアル、果物という子。カップラーメンという1歳児。朝食をとらない、みそ汁を飲んだことがない子もいる。

 ある高校の家庭科の先生の話では、調理実習の希望を尋ねると、ケーキとかクッキーとかお菓子ばかり。「料理の基本はみそ汁」と提案すると、「嫌だ。お湯を注ぐだけやん」と言う。これがいまどきのみそ汁なんですね。

 大人に、家事や料理より勉強が大事という価値観が強すぎたのではないか。子どもは成長しても全く料理ができなくなっています。

 九州大農学部では毎年、新入生の3食を調べます。2年前のある日の昼食と夕食、翌日の朝食の例では、〈食べてない、コンビニ弁当、食べてない〉〈おにぎりとチョコレート菓子、カルボナーラとコーンスープ、食べてない〉などです。

 こうした学生が社会人になっても、学生時代にできていなかったことがいきなりできるはずがない。そのうち結婚。自炊能力が身についてないまま、やがてママになるんですね。

 子どもが大学進学などで親元を離れる前に食の技術、知識、それを生かせる価値観を身につけさせる。弁当は象徴です。手作りすることに意味があるという価値観を取り戻さなければならないと思います。

主催 読売新聞西部本社
後援 九州農政局、福岡県、福岡県教育委員会、NHK福岡放送局、FBS福岡放送
協賛 JA全農ふくれん

2012年1月3日  読売新聞)
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