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命つなぐ地図 お年寄りをご近所で見守り支え合い


「支え合いマップ」を広げ、地域の情報を書き込む玉江浦2区町内会のメンバー(山口県萩市で)=秋月正樹撮影

 ご近所に住む一人暮らしのお年寄りや、老々介護などの家庭を気にかけようと、「支え合いマップ」と呼ばれる地図作りが、各地で広がっている。地震など災害の備えにも役立ちそうだ。

 人間関係を視覚化

 「一人暮らしのこの人は、最近どうしてる?」「あの人がおかずのお裾分けをしているわ」――。

 山口県萩市にある玉江浦2区町内会(約120世帯)の集会所に、町内会の役員や民生委員ら8人の住民が集まっていた。

 3年ほど前から、独自の支え合いマップを作っているメンバーだ。テーブルの上に大きな住宅地図が広げられ、「一人暮らしのこの人」の家には、ピンクのシールが貼られている。

 ペンを持った女性メンバーが、この家と、食事を提供している家の間を線で結んだ。別の女性が「そういえば、この店で買い物しているのを見かける」と言うと、店との間にも線を引いた。「救急車をよく呼んでいるようだ」という情報が出ると、それも書き込む。

 「ご近所さん同士の世間話を、地図に落とし込む作業をしています」。民生委員の上領恵美子さん(69)が教えてくれた。

 ピンクのシールは「一人暮らし」、赤が「認知症」、緑が「寝たきり」だ。「私たちが気にしている人たちの暮らしぶりをみんなで確認し、支えていくための道具が、このマップなのです」

 玉江浦地区は、日本海に面した漁業中心の集落。住民の約4割が65歳以上だ。「どこの誰が、何に不自由しているのか分かるようになった。顔の見える関係を築くことで、いざという時にも備えられる」と町内会長の河村幹生さん(75)は強調する。

 この取り組みをきっかけに、住民の有志が月1回、手作り弁当を希望者に届けるボランティアも始まった。

 マップの目的はあくまで、近所の支え合い。住民のプライバシー侵害を避けるため、作成に携わるのはこの8人に限定している。河村さんが自宅で保管し、コピーも取らないことにしている。

 漁村の住民にとって、東日本大震災による津波被害の大きさは衝撃的だった。「私たちの命をつなぐマップになりそうです」。老人クラブ会長の玉一忠義さん(83)がつぶやくと、全員がうなずいた。

 情報が課題解決の糸口に

 九州・山口でもマップを作る地域が増えている。社会福祉協議会などが講習会を開くケースも多いようだ。

 宮崎県高鍋町では82地区のうち3地区で作成が始まった。長崎県波佐見町でも昨年から、22自治会のうち2自治会が取り組む。

 熊本県人吉市では、市内の92町内会のうち13町内会が作成し、成果も出ている。ある町内会では、夜間徘徊(はいかい)のある認知症の男性について、「足腰が弱い」「以前、グラウンドゴルフをしていた」といった情報が出された。「昼間、ご近所の車でグラウンドゴルフに連れて行ってはどうか」という提案を実行したところ、夜間徘徊がなくなったという。

 約50世帯単位 核に「世話焼きさん」


愛知県安城市の民生委員らにマップ作りのコツを指南する木原さん(2008年1月、住民流福祉総合研究所提供)

「一人暮らし」「認知症」など、支えたい人たちの状態をペンやシールを使ってマップに記載する

 マップを考案したのは、埼玉県毛呂山(もろやま)町に住む木原孝久さん(70)だ。1970年代から住民主体のまちづくりを提唱するうち、「ご近所」の関係を地図上で視覚的に示す手法を思いついたという。

 90年代から「住民流福祉総合研究所」の所長として普及を呼びかけ、取り組みは農漁村や新興住宅地、マンションなど全国500か所以上に広がった。

 作成の際は、目が届きやすいとされる50世帯ほどを一つの「ご近所」とするのが目安だ。作成者は一つのご近所に4〜5人必要。まず、地図を用意し、地域の「気になる人」や、面倒見のいい「世話焼きさん」を探し、家に印を付けていく。

 「世話焼きさん」は、助け合いの核となる人物で、マップ作成にも加わっていることが多い。「困っている人がいると放っておけない。そんな人がどのご近所にも必ずいる」と木原さん。

 住民の交流が希薄そうな地域でも、いろいろと情報を出し合うと、犬の散歩仲間だったり、畑の貸し借りをする間柄だったりと、意外なところでつながっているそうだ。

 一方で、プライバシーにかかわる情報をどのように集め、管理するのかといった課題は避けて通れない。「地域住民の理解を得るためにも、無理な情報収集をしないことや、マップの保管責任者を決めるなど、事前の申し合わせが大切」と木原さんは話す。

 心配りを忘れず信頼関係築いて

 地域の助け合いに詳しい日大法学部教授の稲葉陽二さん(61)(社会関係資本論)に、支え合いマップの意義などを聞いた。

      ◇

 孤独死や引きこもりなど、目の前に迫る問題を、ご近所の中で解決する有効な手法ですね。「世話焼きさん」などが独自に築いている人と人とのつながりは、地域の大切な資産。これを活用することで、孤立している人を支えられ、どことどこを結べば解決するか、といったことも見えてきます。

 作成に当たっては、何のためかという目的をはっきりさせておかなければなりません。「気になる人」の健康や命を守るため、防災のためであれば、ご近所の賛同を得やすいと思います。

 作成者に留意してほしいのは、「気になる人」への心配りです。「困っている人を助けてやる」といった一方的な姿勢では、理解は得られません。人生を積み重ねてきた人たちへの敬意を忘れず、信頼関係を築くことが大切です。

 住民流福祉総合研究所 049・294・8284
 ホームページhttp://www5a.biglobe.ne.jp/~wakaru/

2011年5月2日  読売新聞)
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