自然への郷愁を誘う茶庭で
心やすらぐひとときを
山里の風景を思わせる静かな庭
「山里の趣」を表現した茶庭には華やかな花はなく、簡素でしっとりとした樹木や下草、そして青々としたコケが主役です。門の左手のカエデは、5月ごろには赤く芽吹き、梅雨の時期には深い緑に、そして秋にはまた美しく紅葉するのだそう
山口県萩市『御茶処 惺々庵(せいせいあん)』 森田タキ子さん
表千家茶道教授の森田さんはお茶を習い始めて50年。萩を訪れた人に喜んでもらおうと、昭和45年から茶室を利用してお茶処を始めました。茶庭の手入れはご主人と2人でしています。最近はお孫さんも手伝ってくれるのだとか
城下町の風雅なお茶処
露地門から茶室を望んだところ。風趣あふれる茶庭を眺めながらお茶をいただく。非日常的なとっておきの時間が味わえます
土塀と夏ミカンで知られる城下町・萩で、茶道の先生をしている森田さん。自宅に造った茶室「惺々庵」を利用して、訪れた観光客を抹茶でもてなします。
「喫茶を始めたのは、ちょっとしたことがきっかけ。お茶の教室があった日に、雨宿りをしていた観光客の方に一服さしあげたら、それは喜ばれて。せっかく観光客でにぎわう通りですし、もっと多くの人に喜んでもらえればと、おけいこがない日にお茶処を始めたんですよ」と森田さん。
野点の傘を飾った露地門をくぐると、手水鉢、灯籠、飛石、コケなどで構成された美しい茶庭が現れます。
心地良さがいちばん
「20年ほど前に茶室を造ったのですが、そのときに庭もリフォームしました。参考書などを手本に私がデザインしたので全く自己流です。専門家の人が見たら、ちょっと違うと言われそう。でも、決まりごとより、自分が心地良く感じられることが重要だったので。庭を見ると心がほぐれます」
自然の趣を大切にする茶庭では、作りすぎないよう手を加えないといいますが、実は自然な風景を維持するには小まめな手入れが必要なのだとか。「ここは南向きの庭なので、美しいコケを保つために、暑い時期には1日に何度も打ち水をしたり、雑草取りをしなければなりません。手入れはラクではありませんが、庭を眺めて顔をほころばせるお客さまがいるから」と森田さん。萩を訪ねたら、「惺々庵」でお茶と庭を楽しんでみてはいかがでしょう。
通りからも見える野点の傘が「惺々庵」の目印
露地門の屋根に生えた山野草
一流作家の萩焼で抹茶を味わうこともできる。萩銘菓がセットになっていて好評なのだとか
和の小物が景色を盛り立てています
春に清楚な花をつけるアセビの木
茶室点描
「惺々庵」という名前は「常在惺々(常に心をさとくする)」という掛け軸の言葉から
時間があるときは、お茶室でお茶をたててふるまうことも
茶室に生ける茶花は裏庭で育てている森田さん
茶庭の素材と美
【手水鉢とつくばい】
茶庭に不可欠なものが手水鉢。茶室に入る前、ここで心身を清めるために手を洗います。右は建物の縁先に配される立石型の「縁先手水鉢」。左は茶庭専用の低く据えられた石手水鉢「つくばい」
【留め石】
茶庭の飛石や延段の岐路に据えられる「留め石」。石の置かれているところより奥には入らないようにと客の出入りを禁ずるしるしです。そんなさりげない誘導のサインに、日本的な美学があふれています
【コケ】
日本最古の造園書「作庭記」にも登場するコケは、野山の風景を演出するのには欠かせない素材です。「暑さに弱いコケの手入れは大変です。夏は何度も水をかけて、雑草はピンセットで抜くんですよ」と森田さん