指宿温泉(下) 暮らしに息づく温泉 (06.03.29)
「スメは家族の一員と思うほど大切」と話す新堂さん
指宿温泉郷からほど近い「鰻(うなぎ)地区」。あちらこちらの家庭には、「スメ」と呼ばれる蒸気かまどがある。地区の人たちは、今も地中からの温泉の噴気を料理に使うなど、暮らしに温泉が根付いている。
区長の新堂明さん(74)(指宿市山川成川)宅を訪ねた。庭の一角にあるスメは、長さ1.5メートル、幅0.7メートルほど。蒸気が出てくる穴をコンクリートブロックで囲い、鉄の網が載っていた。網の周りには厚手の布ぶくろを敷き詰め、保温効果を高めている。
モウモウとわき出る蒸気にそっと触れてみると、やけどしそうな熱さで、思わず手を引っ込めた。95度もあるそうだ。
蒸気で料理、暖房、湯沸かし
「スメ」の語源は、はっきりしない。「くすぶるという意味の鹿児島弁『すもる』からきているという説もあります」と新堂さん。
「じゃあ、卵を蒸してみましょうかね」
生卵を入れたザルを網に載せて約10分。ゆで卵が出来上がった。ほおばると、ほのかに硫黄の香りがした。1時間は熱々のままで食べられるという。
井之上美鈴さん
鰻地区約50世帯のうち、スメを使っているのは約4分の1。約20年前までは、ほとんどの家庭で活躍していたが、電化製品の普及で減っている。
それでも、「やっぱりスメじゃないと、おいしく仕上がらない」という地元の人は少なくない。近くの主婦井之上美鈴さん(54)は、主にブロッコリーやチンゲンサイなどの野菜を蒸すために使っている。
「お湯でゆでるのとは全然違う。水っぽくならないので、濃厚な味が楽しめるんです」と魅力を教えてくれた。
新堂さん宅には、スメから蒸気をパイプで引いた乾燥室がある。室温を年中30度前後に保つことができ、洗濯物を干したり、干しシイタケを作ったりしている。浴槽の下にも引き込み、蒸気の熱でお湯も沸かす。「電気、ガスいらず。本当に経済的ですよ」と自然のエネルギーに感謝する。
住民は1日1回無料で入浴できる区営鰻温泉
共同風呂で裸の付き合い
鰻地区では、自宅に風呂がない家庭が多い。区営の温泉があるからだ。早速、新堂さん方から歩いて2〜3分の「区営鰻温泉」に向かった。こぢんまりとした木造平屋の建物は、旧山川町と地区の人がお金を出し合い、約10年前に建て替えた。男湯、女湯に、それぞれ長径約3メートルの長円形のお風呂がある。
正午過ぎ。お年寄りらがタオルやシャンプーなどを入れた洗面器を抱え、次々に訪れた。市外からの温泉ファンが訪れることも少なくないが、毎日顔を見せる地元の常連客も30人ほどいる。区費を納める地区の人たちは1日1回、無料で入浴できる。
あちらこちらからスメの蒸気が上がる鰻地区
「みんな生まれた時からここに通っている。仲良く裸の付き合いができるんですよ」。受付の女性が笑顔で話してくれた。お風呂の番は地区の人たちが交代で務めるなど、地域の宝をみんなで大切に守り、引き継いでいる。
夕暮れ時。ぶらぶらと辺りを歩いた。あちらこちらからスメの蒸気が上がる中、湯上がりの住民が家路につこうとしていた。のんびりした光景の中、ゆったりと時間が流れていた。
区営鰻温泉 指宿市内では珍しい単純硫黄泉で、神経痛、慢性皮膚炎、糖尿病などに効能があるとされる。午前6時30分〜午後8時。毎月第1月曜日が休み。地区の住民以外は、中学生以上200円、小学生100円。問い合わせは同温泉(0993・35・0814)。